【飲食店のクレーム対応完全ガイド】初動対応・例文・カスハラ対策も網羅

「またあの飲食店に行きたい」と思ってもらえるか、「二度と行かない」と思われるかは、クレーム対応にかかっています。飲食店を経営していれば、クレームは避けられません。料理の味や接客、提供スピード、衛生面、価格に対するお客様の期待がズレると、不満がクレームとして表面化します。

飲食店がクレームに対して「その場しのぎ」の対応で終わてしまったことで再来店の機会を失うこともありますが、適切なクレーム対応をすることで「逆にファンになった」と言われることもあります。

本記事では、飲食店におけるクレーム対応の基本、具体的な対応手順、よくあるNG行動、ケース別の謝罪例文、カスハラ対策、そしてクレームを“チャンス”に変える戦略までを完全網羅します。

「クレーム対応に自信がない」「現場スタッフがうまく対応できていない」と感じている飲食店の経営者・店長の方に、ぜひ最後までご覧いただきたい内容です。

目次

1:飲食店のクレーム対応が重要な理由

飲食店におけるクレーム対応は、単なるトラブル処理ではありません。対応次第でお客様の信頼を得ることもあれば、店舗の評判や売上に深刻なダメージを与えることもあります。とくにSNSや口コミサイトが日常的に使われる現代では、たった一件の対応が大きな影響を及ぼす可能性があります。

例えば、あるお客様が料理の提供遅延に不満を感じていたとしても、スタッフが誠実かつ丁寧に対応すれば「ちゃんと対応してくれた」とポジティブな印象に変わることもあります。一方で、雑な返答やたらい回しにしてしまえば、その対応が「最悪の接客」としてSNSに投稿され、数百人・数千人の目に触れることになります。

しかしクレームは、見方を変えれば「無料でもらえる改善点のヒント」です。料理の提供時間が遅い、接客が冷たい、店内が汚れている──これらはすべて店舗運営における改善対象であり、お客様のリアルな声です。

ここで大切なのが「顧客第一主義」の考え方です。これは単に「お客様の言うことがすべて正しい」ということではなく、「相手の期待に応える姿勢を持ち続けること」が本質です。たとえ自分たちに落ち度がない場合でも、不快な思いをされたお客様の気持ちに寄り添う対応が、クレームの火種を抑える最も効果的な手段となります。

また、この顧客第一の価値観をスタッフ全員で共有しているかどうかは、クレーム対応の質に直結します。現場の判断に任せきりにするのではなく、店舗全体で「どんなときも誠実に、迅速に対応する」という共通認識を持つことが、長期的な信頼づくりに不可欠です。

 

2:飲食店でよくあるクレーム事例と原因の背景

飲食店でよくあるクレーム事例と原因の背景

飲食店で発生するクレームには、いくつかの典型的なパターンがあります。これらは「お客様が不快に感じた結果」ですが、その背景にはスタッフの対応ミスだけでなく、店舗側のオペレーションや顧客の期待値とのギャップなど、さまざまな要因が潜んでいます。

ここでは、実際に多くの飲食店で報告されているクレームの代表例と、それぞれの発生要因について詳しく見ていきましょう。


2-1:料理の味・品質・温度に関するクレーム

料理そのものに関するクレームは、最も多いジャンルの一つです。

「味が濃すぎる」「ぬるい」「生焼けだった」「思っていた味と違う」など、主観的な要素も含みつつ、提供側がコントロールできる部分も少なくありません。実際にはレシピ通りに作っていても、体調や期待とのズレによって不満が生じるケースもあります。

ポイントは、反論や言い訳ではなく、「お口に合わず申し訳ございません」と受け止め、柔軟な対応(例:作り直しや代替料理の提案)を行うことです。


2-2:異物混入・衛生面の問題に関するクレーム

クレームの中でも、店舗への信頼を大きく損なうのが異物混入や衛生に関するものです。

「髪の毛が入っていた」「虫が皿に乗っていた」「食器が汚れていた」といった内容は、SNSや口コミで拡散されやすく、経営へのダメージも大きくなりがちです。

このような事態では、まずは真摯な謝罪、そして料理の交換や代金返金といった明確な対応が求められます。同時に、原因を特定し、再発防止のための厨房ルールやスタッフの衛生チェック体制を強化しましょう。


2-3:提供時間の遅れ・待ち時間に関するクレーム

「注文してから30分以上待った」「後から来た人の料理が先に来た」など、待ち時間に関するクレームもよく聞かれます。

これは混雑や人手不足などの事情があっても、お客様から見れば「対応が悪い」「忘れられている」と感じる要因になります。

重要なのは、“事前に伝えること”と“途中の声かけ”です。「ただいま混み合っており、お時間をいただく可能性がございます」や「今、順番にご用意しております」など、たった一言で不満を防げることも少なくありません。


2-4:接客態度・対応ミス・私語に関するクレーム

「スタッフの態度が冷たい」「目を見て話さない」「接客中に私語をしていた」など、接客面での印象によるクレームは非常に多く、感情的なクレームになりやすい傾向があります。

さらに「注文を聞き間違えた」「ドリンクをこぼした」などのミスが重なると、お客様の不満は爆発寸前になります。

対応力は教育で高めることができます。接客マナーの研修やOJT、接客時の言葉遣いの標準化など、日常的な指導が非常に効果的です。


2-5:会計ミスや価格に対する不満に関するクレーム

「注文していない料理の金額が加算されていた」「税込みと勘違いしていた」「価格に見合っていない」など、料金に関するトラブルも起こりやすい分野です。

金額トラブルは「お金をごまかされた」と誤解されやすいため、対応を誤ると信頼喪失に直結します。レジや伝票の確認は、ミスが起きやすい工程であると認識し、ダブルチェックの運用を心がけましょう。

また、誤解が起きないよう、メニューや表示にも注意を払い、税込価格の明記や表記方法の統一も大切です。


2-6:健康被害(腹痛・食中毒など)に関するクレーム

「食後にお腹が痛くなった」「吐き気がする」「他の同行者も同じ症状」というようなケースは、重大なクレームにつながります。

この場合は、まず謝罪し、落ち着いた口調で状況を聞き取ります。同時に「必要であれば病院に行かれてください」と促し、診断書の取得を依頼しつつ、初回の治療費負担を提案することも選択肢です。

自店舗が原因かどうかは調査が必要ですが、お客様への対応は、疑われた段階から誠実である必要があります。


2-7:クレームの背後にある心理や期待のギャップ

多くのクレームには、サービス内容と“期待とのギャップ”があります。
例えば、「高級な雰囲気の店なのに、接客がラフすぎた」「老舗店なのに料理が冷めていた」といったものです。

このようなケースでは、顧客の心理的ハードルが高いほど、小さな不満が大きな怒りに変わる傾向があります。

店舗側は、自店が提供している価値とお客様の期待がズレていないかを常に確認し、サービスの見せ方・伝え方を含めて調整していくことが求められます。

 

3:飲食店のクレーム対応・5つの基本手順

クレーム対応をうまく行うためには、感情的にならず、段階的かつ冷静に対応することが大切です。場当たり的な対応ではなく、飲食店として共通のフローを持っておくことで、現場のスタッフも迷わず行動できます。

ここでは、飲食店におけるクレーム対応の基本手順を5つのステップに分けて解説します。


3-1:初動|不快な思いを謝罪する

クレームを受けたら、まず最初にやるべきことは「謝罪」です。内容の正否や原因はひとまず置いて、「不快な思いをさせてしまったこと」自体に対して謝ります。

例:「ご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません。」

この“初動の一言”が、その後の関係を大きく左右します。仮にこちらに非がなかったとしても、誠意ある姿勢を見せることが、感情の沈静化に大きく貢献します。


3-2:ヒアリング|話を最後まで聞く(リスニングスキル)

謝罪のあとは、お客様の話を丁寧に聞き取ります。途中で話を遮ったり、「でも」や「そうは言っても」と反論したりするのは厳禁です。

傾聴のポイントは以下の3つです。

・目を見てうなずきながら聞く
・共感の言葉を適度に挟む(例:「それは大変でしたね」)
・相手の話を繰り返して確認する(例:「○○という点でご不快に感じられたのですね」)

このステップでは「解決」よりも「共感」が重要です。感情を受け止めることで、次のステップへスムーズに進めます。


3-3:状況確認・情報収集(事実確認)

お客様の話を聞き終えたら、すぐに現場での状況確認に入ります。調理スタッフ、ホールスタッフ、POSレジなど、関係する情報源から事実を収集します。

確認すべき情報の例:
・該当の料理の調理記録(提供時間・シフト担当者)
・オーダー履歴・注文メモ・伝票内容
・店内カメラ映像やスタッフの証言(必要に応じて)

この段階では、お客様に長時間待ってもらうのは避けたいところ。再度の謝罪と、「状況をすぐ確認し、ご説明いたします」と一言伝えるだけで印象は変わります。


3-4:解決策の提示|誠実かつ迅速に対応する

状況が把握できたら、速やかにお客様に対して解決策を提示します。ここでは、誠実さと具体性が重要です。

例:「こちらの不手際で料理が遅れてしまいました。ご希望があればお作り直しいたしますし、代金は頂戴いたしません。」

NGなのは、「本部に確認しますので、またご連絡します」など、曖昧な対応をしてしまうこと。対応が曖昧だと「ちゃんと向き合ってくれていない」と思われ、火に油を注ぎかねません。

店舗の裁量で判断できる範囲は事前に決めておき、即時対応できる体制を整えておくことが望ましいです。


3-5:フォローアップ|再謝罪・満足度確認・再発防止策の伝達

問題が収束したあとも、最後のフォローが肝心です。料理を出し直して終わり、ではなく、再度きちんと謝罪と感謝の気持ちを伝えましょう。

例:「本日はご不快な思いをおかけし、重ねてお詫び申し上げます。貴重なご指摘をいただき、ありがとうございます。」

また、場合によっては後日お電話やメールでのフォローアップも有効です。「ご不便をおかけした件、その後いかがでしたか?」と連絡するだけで、誠意が伝わりやすくなります。

さらに、「今回の件はスタッフ全員と共有し、今後の改善に役立ててまいります」と伝えることで、信頼を取り戻す一歩となります。

 

4:クレーム対応で絶対に避けたいNG行動

どれほど誠意を持ってクレームに対応したとしても、対応の仕方ひとつで状況を悪化させてしまうことがあります。とくに、お客様の感情が高ぶっている状況では、些細な一言や無意識の態度が「誠意がない」と受け取られ、火に油を注ぐ結果になりかねません。

ここでは、飲食店で起こりがちな「やってはいけないNG対応」の具体例と、それを避けるための考え方を紹介します。


4-1:お客様の話を遮る・反論するクレーム対応

お客様の話を最後まで聞かずに遮ったり、「でも」「それは違います」と反論してしまうことは、絶対に避けたい対応の一つです。たとえ事実誤認があったとしても、感情が高ぶっているお客様にとっては、“否定された”という印象だけが強く残ってしまいます。

まずは、「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」と謝罪し、相手の話をしっかりと聞き切ることが基本です。事実確認や修正は、そのあと冷静なタイミングで行うようにしましょう。


4-2:責任転嫁・逃げの姿勢をとるクレーム対応

「それはキッチンのミスです」「私は新人なのでわかりません」「店長に聞いてください」など、自分では対応できないという姿勢を見せると、お客様は“たらい回しにされた”と感じ、さらに怒りを募らせます。

たとえ自分の担当ではなかったとしても、「私の方で確認し、責任を持ってご対応いたします」と言える姿勢が大切です。店舗全体として誠意を示すことが、信頼回復への第一歩となります。


4-3:曖昧な返答や判断保留を繰り返すクレーム対応

クレームに対して「たぶん大丈夫です」「一応確認しておきます」「あとで折り返します」といった曖昧な返答を続けると、お客様は「真剣に対応してもらえていない」と感じます。

その場で即答できない場合でも、「○分以内に必ずご報告いたします」など、明確な期限を伝えることで安心感を与えることができます。対応のスピードと具体性は、クレーム対応における信頼構築の鍵です。


4-4:無表情・無言・態度が悪いクレーム対応

言葉遣いが丁寧でも、表情が硬かったり、無言だったりすると、誠意が伝わらないばかりか「面倒くさそうにしている」「謝る気がない」と誤解されることがあります。

とくに接客業では、声のトーンや表情、姿勢といった非言語的な要素が、お客様に大きな印象を与えます。やや柔らかい表情と穏やかな口調、アイコンタクトを意識するだけで、伝わる印象は大きく変わります。


4-5:対応をたらい回しにするクレーム対応

「こちらでは対応できません」「別の者が対応いたします」など、スタッフが次々と交代していく状況は、お客様にとって非常にストレスフルです。「誰が責任を取るのか分からない」と感じさせてしまうと、信頼は一気に失われます。

クレームが発生したら、可能な範囲でその場の担当者が一貫して対応し、必要に応じて責任者に引き継ぐ場合も、「この後、○○が引き続きご説明いたします」と明確に伝えることが重要です。


4-6:軽率な発言や開き直った態度をとるクレーム対応

「そんなに大ごとですか?」「他のお客様は気にしていませんよ」など、軽く受け流すような発言は、状況をさらに悪化させます。また、「大丈夫ですよ」といった根拠のない安心感を与える言葉も、不信感につながることがあります。

お客様が不満を訴えている時は、まず真摯に受け止め、適切な言葉で謝罪し、対応方針を具体的に伝えることが何より大切です。


4-7:まとめ|NGなクレーム対応は“お客様の怒りスイッチ”になりうる

クレーム対応では、お客様の言葉だけでなく、背景にある感情や心理的な不満を汲み取る姿勢が求められます。そこで不用意な発言や態度を見せてしまうと、それが“怒りのスイッチ”になってしまうことも珍しくありません。

逆に、NG行動を避け、共感・傾聴・誠意を基本とした対応ができれば、クレームは円満に収束し、時にはリピーターにつながることもあります。

 

5:ケース別の謝罪フレーズ・例文集

ケース別の謝罪フレーズ・例文集

クレーム対応においては、内容に応じた「伝え方」が非常に重要です。ただ謝ればいいというものではなく、「何について」「どのように」謝るのかを的確に言葉にする必要があります。

ここでは、飲食店でよくあるクレームシーンを5つに分け、それぞれの状況に適した謝罪の言い回しや例文を紹介します。スタッフ教育やマニュアル作成にも活用できる内容です。


5-1:料理の提供遅延・オーダーミスへの謝罪

料理が出てくるまでの時間がかかりすぎてしまった場合や、注文内容と違うものを提供してしまった場合には、まずその事実を明確に謝罪し、続けて対応の意志を伝えることが大切です。

例文:
「お料理のご提供が大変遅れてしまい、申し訳ございません。すぐに確認し、急いでご用意いたします。」
「ご注文と異なる商品をお出ししてしまい、誠に申し訳ございません。正しい内容で改めてご用意させていただきます。」


5-2:料理の品質・味・温度に関する謝罪

「味が濃すぎる」「ぬるい」「焦げている」など、主観的な要素も含むクレームには、反論せず、柔軟に対応する姿勢が求められます。

例文:
「お口に合わず、申し訳ございません。よろしければお好みに合わせてお作り直しさせていただきます。」
「料理が十分に温まっていなかったようで、大変失礼いたしました。すぐに温かいものとお取替えいたします。」


5-3:接客態度・衛生面への謝罪

接客に関するクレームは感情に訴えるものが多いため、まずお客様の気持ちに寄り添う謝罪が必要です。衛生関連のクレームは店舗の信用にも関わるため、より丁寧な対応が求められます。

例文(接客):
「不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません。接客のあり方については、今後スタッフ全員で見直し、改善に努めてまいります。」

例文(衛生):
「料理に異物が混入していたとのことで、深くお詫び申し上げます。すぐに確認し、再発防止に向けて対策を徹底いたします。」


5-4:会計ミス・価格への不満に関する謝罪

会計トラブルは金銭に関わるため、敏感な対応が必要です。小さなミスであっても、即時に謝罪と訂正を行うことが信頼維持の鍵となります。

例文:
「お会計に誤りがございました。大変失礼いたしました。すぐに訂正し、差額をご返金いたします。」
「価格表示と実際のご請求に差異があり、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。今後は表記にも細心の注意を払ってまいります。」


5-5:電話・メールでの謝罪例文(文面対応)

店頭で直接謝罪できない場合や、後日改めてフォローする場合には、電話・メールによる丁寧な対応が必要です。文面でも誠意が伝わるよう、形式にとらわれすぎず、相手の状況に配慮した内容にすることが大切です。

例文(メール):
件名:先日の件に関するお詫び
〇〇様

いつも当店をご利用いただき、誠にありがとうございます。
このたびは、当店の不手際によりご不快な思いをおかけしてしまい、心よりお詫び申し上げます。

ご指摘いただきました点につきましては、すでにスタッフ間で情報を共有し、再発防止策を講じております。
今後はこのようなことがないよう、サービスの向上に一層努めてまいります。

改めまして、このたびの件、誠に申し訳ございませんでした。
何卒、今後ともご愛顧賜りますようお願い申し上げます。

〇〇(店名) 〇〇(担当者名)

謝罪の言葉は「言い回し」だけでなく、「どう伝えるか」が大切です。
お客様が“誠意”を感じるのは、丁寧な言葉とあわせて、迅速かつ具体的な対応がなされているかどうかにかかっています。

 

6:カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応法

カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応法

クレームの中には、正当な指摘ではなく、店舗スタッフに対する過剰な要求や人格否定など、明らかに理不尽なものも含まれます。これが「カスタマーハラスメント(カスハラ)」です。

近年では、飲食店でも「土下座を強要された」「長時間居座られた」「SNSに悪質な投稿をされた」などの事例が増加しています。
対応を誤ると、スタッフの離職や店舗の評判低下につながるため、組織としての正しい方針とマニュアルが不可欠です。


6-1:正当なクレームとカスハラの違いを見極める

まず重要なのは、「クレーム」と「カスハラ」の線引きを社内で明確にすることです。

・正当なクレーム:料理の不備、接客のミス、価格の説明不足など、店舗側の改善を求める内容。
・カスハラ:怒鳴る、威圧する、土下座を求める、人格否定、SNSでの晒し行為、執拗な返金要求など、要求が過剰・不当であるケース。

理不尽な要求に対してまで謝罪やサービス提供を続けてしまうと、逆に「つけ込まれる」リスクがあります。


6-2:現場スタッフがクレーム対応でやるべき初動とは

現場でカスハラが疑われる事態に遭遇したら、以下のポイントを意識して初動対応にあたることが重要です。

・相手の言葉や態度に過剰反応せず、冷静かつ丁寧に対応する
・会話内容や発言をメモまたは録音で記録(可能な範囲で)
・無理に謝罪や要求受諾をせず、「責任者に確認いたします」と対応を一時保留する
・複数名のスタッフで対応する(目撃者を確保)

感情的に引きずられず、毅然とした対応をとることがカスハラ抑止につながります。


6-3:組織として備えるべき社内ルールとクレーム対策

飲食店がカスハラに備えるには、現場任せにしない組織的な対応方針の整備が必要です。以下のような社内体制を構築しておくことをおすすめします。

・カスハラ対応マニュアルの整備(例:「土下座・暴言・長時間拘束」など行動ごとの対応方針)
・スタッフ研修の実施(クレームとカスハラの違い、適切な初動の取り方)
・報告体制の明確化(上司へのエスカレーションルートを明示)
・精神的ケアの提供(モラハラ被害後のフォロー体制や外部相談窓口)

また、店舗入口やメニューなどに「スタッフへの暴言・ハラスメント行為はお断りします」と明記することで、未然に防ぐ効果もあります。


6-4:法的対応が必要なケースとは?

次のような場合は、法的措置を視野に入れるべきカスハラ事案です。

・土下座を強要された
・SNSやGoogle口コミに虚偽情報を投稿された
・店舗に長時間居座り、営業妨害を行われた
・店員に対する暴力・脅迫行為があった

これらは威力業務妨害罪・名誉毀損・脅迫罪などに該当する可能性があり、弁護士や警察に相談すべきレベルです。
ただし、感情的に「訴えてやる」と言うのではなく、証拠(録音・映像・記録)を整理したうえで、冷静に対応する姿勢が重要です。


6-5:まとめ|スタッフを守る姿勢が健全な店舗経営をつくる

どんなにサービス品質を高めても、理不尽なクレームやハラスメントをゼロにすることはできません。
だからこそ、「お客様第一」と「スタッフの尊厳」のバランスを取った店舗運営が求められています。

スタッフを守る明確な方針があることで、安心して接客に取り組める環境が生まれ、結果としてサービスの質も高まります。カスハラへの対処は、店舗の“覚悟”が問われる経営課題といえるでしょう。

 

7:クレームをチャンスに変える考え方

クレームをチャンスに変える考え方

多くの飲食店では、クレームを「迷惑なもの」「できれば関わりたくないもの」と捉えがちです。しかし、見方を変えればクレームは“お客様からの経営アドバイス”でもあり、サービス改善のヒントが詰まっています。

本章では、クレームを前向きに捉え、店舗の成長につなげるための考え方と具体的な活用法を解説します。


7-1:クレームは“期待の裏返し”である

お客様がわざわざ時間を割いて不満を伝えるのは、「本当はもっと良くなってほしい」「期待していたのに裏切られた」と感じているからです。

つまり、クレーム=店舗への期待値があった証拠。
何も期待していなければ、二度と来店しないだけです。
この心理を理解すると、クレームを“改善の糸口”として受け止める意識が芽生えます。


7-2:クレームはサービス改善の“優先課題リスト”になる

すべてのクレームは、店舗運営のどこかに「お客様の不満ポイント」があることを示しています。

・提供スピードが遅い
・接客の言葉遣いが気になる
・説明が足りない
・メニューがわかりにくい
・清掃が行き届いていない

このような指摘を「1件の声=10人の沈黙する不満」として捉え、対応策をリスト化・優先度順に改善していくと、“店舗の弱点”を可視化するツールとして活用できます。


7-3:二度と来ないクレーマーより“リピーターになり得る声”を見極める

中には、悪質なクレーマーや理不尽な要求をする顧客も存在します。しかし多くのクレームは、「本当はまた来たいけど…」という葛藤を伴っているものです。

誠実な対応によって、
・「また来ます」と言ってもらえる
・SNSで感謝の声を投稿してもらえる
・店舗の“真摯な姿勢”が伝わる

こうした事例も珍しくありません。
一度不満を感じたお客様が、ファンとして戻ってくる可能性がある。これがクレーム対応の真価です。


7-4:クレーム対応を“店舗力”に変える3つのステップ

クレームをチャンスに変えるためには、次の3つの流れを意識しましょう。

①即時対応と謝罪
→その場での誠実な対応で、怒りを“感動”に変えることも可能。

②チームで共有・再発防止策を立案
→スタッフ全体で問題点を共有し、次に同じことが起きないよう対策を考える。

③改善報告の見える化
→「以前ご指摘いただいた点、改善いたしました」と告知することで、お客様に“意見が反映された”という納得感を提供できる。

 

8:クレームを減らすための仕組みと予防策

クレームは適切な対応で信頼回復につながりますが、そもそもクレームが発生しにくい仕組みを作ることが理想です。

ここでは、飲食店でよくあるトラブルを未然に防ぐための仕組みや予防策について、具体的に紹介します。


8-1:よくあるクレームは“業務の曖昧さ”から生まれる

多くのクレームの根本には、「誰が何をどこまで対応するかが不明確」という課題があります。

例えば、
・「料理が遅れている」ことに気づいても、誰が声をかけるか曖昧
・「異物があった」と言われても、責任者が対応すべきか現場判断できない
・「注文間違い」に気づいても、謝る・作り直す・返金などの対応基準がない

このように現場の判断が分かれていると、お客様に不信感を与えやすくなります。
明文化されたルールやマニュアルがなければ、どんなに教育をしてもクレームは減りません。


8-2:スタッフ間で“クレーム対応の基準”を共有する仕組み

クレーム対応に強い店舗は、**「誰が」「どう判断し」「どこまで対応するか」**の基準を明確に持っている場合が多いです。

例えば、
・提供時間が○分を超えたら謝罪+料理状況の説明を行う
・クレーム内容に応じて責任者へのエスカレーション基準を明記
・曖昧なクレームにも「一旦感謝と謝罪」→「事実確認」→「再発防止の説明」というフローを共有

こうした**“対応の型”をマニュアル化・周知徹底**することで、現場スタッフの不安や判断のバラつきを減らすことができます。


8-3:ミスを起こしにくい業務設計に変える

根本的なトラブルの予防には、業務自体を「ミスが起きにくい構造」にすることも重要です。

例えば、
・注文ミスを防ぐためにモバイルオーダーを導入
・提供時間の可視化(キッチンモニターの導入など)
・異物混入防止のためのチェックリスト運用
・アレルギー対応や調理ルールのマニュアル化

このように**ヒューマンエラーを減らす“設計変更”**が、現場の負担も減らし、結果としてクレームも激減させます。


8-4:クレーム予防は“教育と仕組み”の両輪で動かす

予防策を実行するには、スタッフ教育と業務の仕組み化の両方が必要です。

・教育(ソフト面):接客マナー研修、ロールプレイング、クレーム事例の共有
・仕組み(ハード面):マニュアルの整備、ITツールの導入、チェックリスト運用

例えば、新人が接客に入る前に「過去のクレーム事例」を学ぶだけでも、防げるトラブルは多数あります。

また、月に1回のミーティングで「最近のクレームと改善策」を共有する文化があれば、クレームを“店舗の財産”として扱う空気も育ちます。


8-5:まとめ|クレームを生まない環境づくりが最善の対応

「起きてから対処する」のではなく、「起きないように設計する」のが、クレーム対応の最終形です。

・スタッフの判断基準を明確にする
・現場の曖昧さを“仕組み”で埋める
・クレーム発生の背景をチームで検証する
・改善サイクルを日常業務に取り込む

これらを継続することで、**“クレームの少ない店=信頼される店”**へと進化していきます。

 

9:まとめ|飲食店のクレーム対応は“初動・誠意・仕組み”が鍵

飲食店におけるクレーム対応は、お客様との信頼関係を維持するうえで非常に重要な業務です。一度の対応ミスが店舗の評判を左右することもあるため、**「誠実な初動対応」と「再発防止への姿勢」**が求められます。

本記事では、よくあるクレームの事例から、初期対応のポイント、謝罪フレーズ、NG対応例、さらには悪質クレーマー(カスハラ)への対策や、クレームを未然に防ぐための仕組み化まで、幅広く解説してきました。

とくに重要なポイントは以下の3つです。

1. 初動対応の丁寧さがその後の評価を左右する

・最初の数分で「誠意がある」と感じてもらえるかが鍵。
・限定的な謝罪→ヒアリング→事実確認→改善提案という基本フローを徹底。
・スタッフが迷わず動けるように“初動ルール”を整備しておく。

2. 誠意と共感は“言葉と態度”で伝えること

・「申し訳ございません」「不快な思いをさせてしまい~」などの基本フレーズを使い分ける。
・感情的になっているお客様には、反論よりも「共感と感謝」が先。
・再発防止の意志を丁寧に伝えることで納得度が大きく変わる。

3. クレームを減らすには“仕組み化”が不可欠

・ミスやトラブルの根本原因は、現場の曖昧さにあることが多い。
・モバイルオーダーや業務ルールの見直しで、ミス自体を減らす環境づくりを。
・スタッフ教育と業務フローの可視化は、店舗全体の信頼性を高める。

クレームは必ずしも悪ではなく、**「改善のヒント」や「リピーター獲得のチャンス」**にもなります。誠意をもって対応し、その経験を“店の資産”として蓄積していくことが、強い飲食店への第一歩です。

今後は、トラブルが発生したときだけでなく、日頃からクレーム予防に取り組む姿勢こそが、顧客満足度と店舗のブランド価値を高めていく鍵となるでしょう。

それではこの記事は以上です。
最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事を書いた人
アクティブ・メディア株式会社 飲食店サポート事務局
店舗公式アプリ作成サービスを通じて飲食店の顧客台帳経営と販促をサポート。 その内容が「Withコロナ時代の即戦力アプリ」、「最も飲食店経営に寄り添ったサービス」として農水省後援の外食産業貢献賞を受賞する等、飲食業界や公的機関から高く評価。 このコラムでは3,000店以上のサポート実績から得た独自ノウハウや事例を公開する等、飲食店経営に役立つ情報を発信している。